恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(7)

いじめと逆襲


少し季節はさかのぼって、
私がメリハンと仲を戻す前の、
入学してからのクラブ活動の思い出が絡んできます。
ごめんなさい、嫌な私が出てきます、ほんと、絶対嫌われると思う・・・。







中学生になった私の目標は、
府内にある音楽科の高校にすすむことだった。
そのために2歳からピアノを弾いていた私は、
どんなに貧乏になっていっても母はそれだけは工面してくれて、
ピアノと作曲と水泳の習い事を続けていた。
だから、部活動も、本当はちゃんとした
声楽の学べる合唱部にはいりたがったのだけれど、
校歌を歌うだけの同好会のような有様だったので、
それならと、府内でも強豪だった吹奏楽部にはいることにした。
内申書に顧問の先生の推薦が必要だったから、
なんとしても音楽のできるところを選ばなければいけなかった。
ちょうどその吹奏楽部の指揮を執る顧問の先生は、
ソロコンサートも開いているような有名な音楽家であり、
指導する吹奏楽部も、田舎の中学にしてはレベルの高い、
全国を狙える成績だった。
私はそこで良い成績をおさめて、
あわよくば小さいソロコンクールに出場するなどして経験を積みたかったし、
そのために入部した初日からどの新入部員よりもまじめに取り組んでいた。

だけど、中学から楽譜を覚えたような先輩たちと、
ずっと楽譜を自分で書いてきた自分とは、やはりどこかでスピードが違った。
私は新入生のなかで一番早く、木管のクラリネットが吹けるようになり、
そんなに苦もなく、金管も鳴らせられるようになった。
だけど吹奏楽って、ほとんど女で構成されてるでしょ。
周りから見てどんなにすがすがしく、さわやかな世界でも、
内情は、毒舌と悪口にまみれたとても意地悪な世界。
当時の私の入部したクラブはそのような場所だった。
私はそこで、完全に先輩方の機嫌を損ねる存在になってしまってた。
というか、不安だったんだと思う。
強豪なためにあふれるようにいる部員たち。
そのなかで夏のコンクールに出れるのは50人までって制限がある。
だからずっと補欠できて、
3年目にしてようやく出れると確信していた先輩達を、
突然新入生が追い抜いちゃうわけですからね。
それはとっても、認められないことだったと思う。
だから6月になって突然、
クラリネット部門からメンバーの少ないサックスにまわれと言われてしまって。
指使いだって一から違う、口の形だって、音階だって、すべて違う。
それをまた、夏を直前にして一からやれと言われる理不尽さ。

「あなたならすぐに吹けるわよ」

そういった、クラリネットリーダーの愛想笑いを、私は良く覚えてる。

だけどサックスって、オーケストラにほとんど出てこない現代楽器。
私の求める「オーケストラで使えるなにか」とは、
あまりにも遠すぎる楽器。
この楽器に3年かけたところで、自分が目指す音楽科コースから、
大きくはずれていくだけのような気がした。
だからもう、本心は嫌で嫌でしょうがなかった。
先輩たちは私の入部の動機も知ってて、
そのうえで転向させたとしか思えなかった、悔しかった、憎みそうになった。
だから金色のサックスを手にしたときに、
他の人なら多少わくわくするだろうその瞬間に、
私ははみじめで泣きたい気分だった。
もうクラブを辞めたい気持ちでいっぱいだった。

ジャズがやりたいわけじゃないし、チェッカーズが吹きたいわけでもないし、
なんで私がこんな楽器を?そう思えて退部を真剣に考えた。
だけど、あれこれ迷っていても、毎日練習はやってくる。
そのたびに自己嫌悪ですよ。吹きたくない、行きたくない。
吹奏楽じゃ、吹いてる姿がかたむかないように、
鏡の前でね、自分を見ながら練習するっていうメニューがあるんだけど、
ああもう私、この楽器超に合ってないな とか、
これをメリハンみたいな美人が吹いてたらがすごく似合うんだろうなとか、
そんなことばっかり考えて、まともに見る事ができなかった。

だけど、やっぱり誰よりも朝早く音楽室について、
昼休みでさえ、練習しにいってたくらいだから、
誰かから遅れをとるっていうのが、
基本的に許せない性格だったんだろうと思う。

そして、そのうち難なくふけるようになって、
ひとりで「チュニジアの夜」まで吹けるようなフェイクも覚えた。
だって多分人一倍練習してた。
口が疲れて痛くなっても、指が腱鞘炎起こしても、
ピアノの時間をけずって、夜は山を登って外で吹いてた。
結局私は、一度入り込んだ生活を投げ出す勇気もない、
くそまじめな生徒だったんだろうと思う。

でも今度は先輩を堂々と追い抜かすような真似はしなくて、
サックスのコンクールメンバーは2・3年生が選ばれるように、
どうでも良いところでミスをしたり、
派手に音をはずしたりして、駄目な後輩を演じた。
先輩たちになんとか気に入られるようにしむけた。
おどけて、冗談言って、一生懸命ごまをすってる自分がいた。
そのとき、自分がね、なんていうか、
ああ、策略家の素質があんじゃないの?みたいな、
そんな予感はあったんだけど、
もう違う楽器にまわされるのも、
わけのわからない女のドロドロに巻き込まれるのもごめんだった。
メリハンのこともあったから、とにかく目立たないようにしようとしていた。

だけど結局のところ、顧問の先生の目はごまかせなくて、
2年生の先輩を差し置いて私はメンバーに選ばれてしまって、
上級生にひとりまじって、夏のコンクールへ向けて練習するはめになった。
結果、1年生からはねたまれたし、疎外された。
上級生からは無視された。
ちょっとしたミスに、明らかに冷たい視線と大げさなため息が漏れて、
「こんな子がなんで・・・」と、クラブ会議にもかけられた。
結局のところ、いじめられていたのだと思う。
だけど私はといえば、最下級生なもので、
意見をするもなにも、何ひとつ刃向かえないわけだけれど、
そういうときの女の団結って、すごいね なんて、
ちょっと遠くから感心してた節があったくらいで。

だけど音はひっきりなしに鳴っている音楽室で、
孤立化していくことが、なにひとつ辛く感じなかった。
むしろ清清しい程、その孤独がありがたかった。
集中できた、音の世界に誰よりも入りこめた。
私はその時に、ようやくサックスを好きになってきている自分を感じたし、
集団というものがつくづく向いてない自分には、
合っているかもしれないと思い始めてきた。
うまくやろうとして、結局やれなかった。
だけど、傷ついたふりをして、ただ気をつかってぺこぺこしておきながら、
心のどこかで、反撃を開始していたのだと思う。
私はそのうちに、先輩たちに一矢をむくいた。
私は、圧倒的に女が多いクラブで貴重な存在の男子部員の3年生で、
いわゆる校内でも人気のある先輩と、交際するようになった。
特に好きだったわけでもない、
周りが騒ぐほど特に憧れていたわけでもない。
ただ、その私をはずしたクラリネットのリーダーが、
彼を好きなことを見抜いていただけだったと思う。

特に苦労して告白したわけではない。
ただ朝一番に音楽室にはいる私と二番目にはいる先輩が、
いつもふたりで窓からふりそそぐ太陽をあびていたら
いつしかそうなっていただけのこと。
多分お互いを少し綺麗に見せる力が、朝日にはあるんだなと思った。
吹奏楽部でなにをしたらその相手と特別になれるのか、
私はなんとなくはじめからわかっていたのだと思う。
先輩が吹いてすぐのまだ唾液で濡れた楽器を、
間違ったふりしてすぐに吹けばよかった。
そして、「先輩もこっち吹いてくださいね?」
無邪気に笑って渡せばよかった。
他人の唾液の味なんて、なんていうことはなかった楽器生活のなか、
いつしか先輩が吹いたマウスピースを夜に渡され、
一晩持って帰って抱いて寝る間柄で、私は孤独でなくなることができた。
ようやく味方をつくることができたのだった。

おかげで先輩はいつもかばってくれたし、
男子グループと一緒に行動するようになって、女たちから逃げれた私は、
ようやく楽しく笑えるようになって、明るくなって、
それがますます嫌われコースを走ることになった。
だけどもう、何も気にしてはいなかった。
この先輩が引退でいなくなっても、
次の二年の先輩を押さえてるつもりだった。
私はそうやって、自分のことを、
どうしたら、うまく生き抜けられるかを図っていた。
憧れの高校の音楽科へ進むための、道しるべとして、
そのクラブでまず一番になって、この窮屈で意地悪な女の園を、
根底から破壊してやろうともくろんでいた。
そしてその計画は、着々とうまくいっているように思えていた。
ただひとつ、頭を悩ませるのは、
夏休みなのに補修で登校している、校内一の派手な不良少女だけ。
メリハンは、合奏練習中はちゃんと邪魔せず待っているのだけれど、
休憩中だとわかると、堂々と入ってきて、
目を剥く先輩方のことも、唖然とする顧問の顔も、私の立場もまったく考えず、
のんびりした声で命令した。

「Mが歌いたい、ピアノ弾いて」




つづく








  「おもいで」

      1話 「転校生」
      2話 「嘘」 
      3話 「彼女の世界」
      4話 「青田さん事件」
      5話 「名前の由来」
      6話 「腐ったみかん」
      7話 「いじめと逆襲」
      8話 「彼女の正体」
      9話 「全裸事件」
     10話 「後悔」
     11話 「田部くん」
     12話 「殺人事件」
     13話 「つかのま」
     14話 「三本の矢」
     15話 「誕生」
     16話 「斑点」
     17話 「寄生」
     18話 「モノクローム」
     19話 「舌」
     20話 「呼び出し」
     21話 「罰」
     22話 「喪失」
     23話 「犬」
     24話 「希望の石」

   番外編(1) 「おねがい」
   番外編(2) 「おわび」
     











ランキングに参加しています。

★★★今日も最後まで読んでくださってありがとうございます♪ 励みになりますのでよろしかったらクリックお願いします!★★★

にほんブログ村 鳥ブログへ
にほんブログ村
ね、やな奴でしょう?もっとこれからやな奴になります
関連記事
Category: 未分類
Published on: Mon,  29 2010 15:05
  • Comment: 4
  • Trackback: 0

4 Comments

S子  

いやいやー・・・
難しいですねー、自分のこと書くのって。
こんだけ書いてきたのに、
なんか、どこまで書いていいのか、
わかんないような過去なんですよね。
でも、嫌だなあ嫌だなあって思ってたわりに、
大事な思い出だったんだなって、
けして思い返したくもない日々ではなかったんだなって、
そう気づいてちょっとうれしくなりました。
みんな、誰しも演じて、無理して笑ったり、そんなところがあるんですよね。
これでいいんだ、そう思えました。コメントいつもありがとうございます!

2010/03/30 (Tue) 11:04 | REPLY |   

典  

全然。

やな奴なんかじゃないですよ。



いつも思うんですけど、みんな自分を演じて生きていますよね。


多分、ありのまま生きてる人の方が少ないと思います。



そして、それを見抜ける力を持っている人も少ないと思います。


自分がそうなのに他人のそうゆう部分には気付かず、上辺だけで相手を信じて騙されて、相手を責める人。


他人に求め過ぎる人達。



あ、私の方がかなりやな奴ですね…(笑)

2010/03/29 (Mon) 22:58 | EDIT | REPLY |   

S子  

TOMO様へ

いらっしゃいませー。
コメントありがとうございます。
ほんとですか?そのコメントにとっても勇気づけられてしまった私です。
嬉しいです、ほんとにありがとう。
元気をもらって、まだまだかけそうな気がしてきました。

2010/03/29 (Mon) 18:22 | REPLY |   

TOMO  

こういうの、分かります…。
私も自分の真面目さを利用して学校生活を
送ってきた節があるので。

嫌うだなんてとんでもない、続き待ってます。

2010/03/29 (Mon) 17:31 | REPLY |   

Post a comment