恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(8)

彼女の正体



名前を、この『おもいで』というのではなく、
なにか他のもうちょっと気のきいたものに
おきかえたいなあと思っていたのですが、
全然浮かびません。
まあ、一番書きたいラストのところを書くことができたら、
きっと、浮かんでくるかな。
それまでは、『おもいで』のままで。
では、つづきです。







「Ⅿが歌いたい。ピアノ弾いて」



   ◇   ◇   ◇



いつだったか彼女は、
将来は歌手になりたいと言った。
私はすぐに「ああなるほど、チョー・ヨンピルみたいな」と言い、
「せめて桂銀淑もってこいや!」と怒られた。
だけど、本当に彼女がなりたかったのは、
歌謡曲や演歌歌手ではなくて、シンガーソングライター。
中島みゆきのような歌手だったのだと思う。
そのたびに、タバコをやめると言っては1時間と続かず、
捨てろと言われて捨てると、後で「拾てこい」とまた怒られた。
彼女の言動はいつも支離滅裂で巻き込み事故多発。
だけど、人前でも堂々と歌い出す純粋さは、
なぜかとても尊かった。



その頃、プリンセスプリンセスと、
ユーミンのナンバーを歌うのがお気に入りの彼女に、
何度つきあわされて伴奏を弾いたことだろう。
そのため、楽器店に足を運ぶたび、
流行のポップスの楽譜も必ずチェックして、
ひそかに弾きながらハモって歌う練習さえしていた。
それを内緒にして、サビの部分で、
彼女の歌にそえるようにそっとハーモニーをいれてあげると、
自分の声の、突然増した奥行きに目を輝かせ、
「あんた最高!」
と、頬よせてくれた彼女。
平凡な中学生活に、それほど手放しで、
誰かに「最高!」と抱きついてもらえることがあるだろうか。
私はただただ、彼女を存分に甘やかしていた。
家来と言われても、彼女のためにピアノを弾くことは私の仕事だった。


だけど自分の部活の時間を、邪魔されることだけは気にくわなかった。
喩えそれが、先輩たちに疎まれて陰口を叩かれて、
音楽室で浮きまくっている私への気遣いだったとしても、
私は彼女に怒りを覚える自分を、抑えられなかった。
もちろん、部外者の乱入は、顧問の先生の眉をひそめさせるに充分で、
その先生は自分が彼女の「深い友達」であることを、
最も知られたくない人物だった。
だから私はいつだって、
「出てって」とはっきり言葉を投げた。
泣く子も黙ると言われたメリハンを、うっとうしげに拒否し続けた。
メリハンは怒って音楽室のドアを破れるほどに叩き締める時もあれば、
しょぼんと肩を落として、帰っていくときもあった。
彼女のそのときそのときの心情を、思いやれない私ではなかったけれど、
私には休憩時間に本気で休む余裕などなかったし、
これ以上目立ちたくはなかった。
怒らせても、帰りに家に寄って様子をうかがいに行けば、
「おかえりー♪」とすでにすっかり機嫌をなおしていることが多く、
私はそれほどメリハンを怒らせることを、気にしていなかった。


だから、そんなやりとりが続いて、なんとかコンクールにも出て、
それなりの成績で、3年生とバイバイできた頃、
私とメリハンは腐れ縁のようになっていて、
お互い気をつかわないでいられる、いい関係が築けてたつもりだった。
だから自分がだんだん周囲からマークされていることに気づいていても、
友人が私に「家じゃたばこ吸ってるってほんと?」って聞いてきた時も、
私はただくすくす笑ってた、そんなお金ないよー、家でもふつうだよーって。
でも一番多かった質問は、「彼女ってどんな人?」。
みんなメリハンには興味があった、だけど怖くて近づけなくなっていた。
「お父さんがヤクザで、お母さんがやとわれママで、お兄さんが少年院・・」
うん、その噂は全部あってる、正解、だけど、
「暴走族の頭とつきあってて、ヤクザのパトロンがいっぱいいるんでしょ?」
ううん、それは違う。なんだかなー、みんなそう信じてたなー。
メリハンはそんな彼女いわく「ダサイ」男とは付き合わない女だった。
もっと、思いもかけないひとを好きになる、
それが彼女の美学だった。


2学期が始まると、メリハンは
私をもっとそばに置きたいという気持ちを
どんどんぶつけてくるようになった。
私が彼女よりも、
常に部活動を優先させることが気にいらなかったんだと思う。

「彼氏のほうが大事なん?」

音楽だの進路だのを、彼女に説明したことは一度もなかったためか、
メリハンは私の吹奏楽にかける情熱は、
交際している先輩のためだとしか、つなげられないようだった。
「こいつは親友より男を取る女や!」
そんなことを、空に向かって大声で叫ばれていたっけ。
だから、そんな彼女を落ち着かせるために、
オフの日は積極的に彼女と町を出歩いた。
当時、メリハンは中学1年生にして、
いつ見つけたのか高級ブティックの男性店員に片想いしていた。
そんな出会いすら、田舎の中学生の私には想像もできなかったけれど、
実際18歳だとサバ読んでる彼女は底抜けに可愛くて、
その男性にアプローチするために、
どうでもいい服や小物を選ぶ彼女につきあって、
よく市内まで出かけたものだった。
その時ばかりは制服を着るわけにはいかないので、
従姉妹に服を借りていったっけ。

彼女はいつだって、お財布に何万円も持っていて、
金の出所を聞くのが怖かった私はなにも聞かなかったけど、
一生懸命貯めてる様子も、噂のように売春している様子もなくて、
多分親の財布から盗んでいたのだろうと見当をつけていた。
私にはこそっとその店員さんが
「本当は中学生でしょ?」
と聞いてきたことがあったので、
全く相手にはされていないんだろうな、とは思っていたんだけど、
いつだったか、結局デートまでこぎつけたと言っていたので、
彼女の作戦勝ちというか、ガッツはすごいな なんて感心してた。

だけど、あれはたぶん、そのひとが、
「彼女がいる」と答えた日のことだったと思う。
突然あの、残酷なメリハンが姿をあらわした。
目にやきつくのは、白い肌のうずくまるそれ。
汚い路地、水びたしの地面。
どこまでも冷めた表情で服を剥くメリハンの姿。
今度もまた、私はその顔を、ぼんやりと眺めていることしかできなかった。



「彼女ってどんなひと?」



友人たちの、好奇心いっぱいの声が聞こえた。

彼女は

彼女はとても───




つづく










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よく捕まらなかったなあと不思議

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Published on: Tue,  30 2010 16:08
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