恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(9)

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全裸事件



つづきです。
差別用語にとられかねない単語が出てきます。
気になる方は、読まないことをおすすめします。






私たちが中学1年生のとき、メリハンはすでに卒業した兄の傘を着て
校内を締めていた。
そのなかに、たったひとり、
メリハンでさえ、「狂犬」と呼んで一目置いている女子の先輩がいた。
その先輩は、ほとんど学校に来なかったので、
本物を見たのは数回しかないのだけれど、
メリハンの家で鉢合わせして、初めて彼女を見たときは本当に驚いた。
140センチくらいしかない、小柄で華奢で、牛乳眼鏡のオカッパ。
まるでちびまるこちゃんのような普通に子供に見えたひと。
ただひとつ、髪がこれ以上脱色しようがないってほど、
色素がなかったのをのぞいて。


見ればすぐに「グレてます」とわかるようなヤンキーには、
どこかで慣れてきていた私も、
その先輩の雰囲気には、底知れない恐怖がわくのを抑えられなかった。
私はその先輩が、なぜかとても怖くて、
原付のバイクでメリハンと二人乗りしているのを見ては、
声をかけられないように、存在を消した。
知らないふりをして、避けていた。

だけど、あの日はなぜだろう。
その先輩とメリハンと私は、
有名デパート前の大きな交差点を渡っていた。
彼女たちと歩くということがどういうことになるのかなんて思いもかけず、
ただただ、ど金髪で妖精みたいな先輩と、
幼さの残る顔で、高級ブティックのボディコンを着る少女、
どこから見ても、ダサい中学の制服の私という取り合わせに、
「目立つなあ・・・」とうんざりしながら、
どうか誰にも見つかりませんように と、祈りながら歩いていた。


そんなこそこそしている私にも気づかないほどご機嫌だったメリハンに、
突如誰かが、
「お前○中のやつやろ?」
いきなり声をかけてきた。
振り返れば、同じようにまともな学生には見えない女子がふたり。

それからのことは、なぜ起こったのかわからない。
はじめは顔見知りだったのか、仲良く話しているようにも見えたのに、
気がつけば、小さくて細い路地に移動して、
殴る蹴るの喧嘩が始まっていた。
私に向かって投げられたひとことは、はっきりと覚えている、それは、

「お前もチョンコーか?」

知らない私を見て、彼女たちがぶしつけに聞いてきたこと。
そのとき私は、無意識に頭を大きく横にふった。
メリハンと、先輩の前で、
「まさか 私が?何言ってるの?」
そんなはずないでしょうと、言わんばかりに。

そのあと見た光景は、
どこか別世界のことのようだった。
相手側の少女たちの威勢の良い咆哮も、喧嘩慣れしているような声も、
まるでドラマのワンシーンのようだった。
あとで考えても、何が原因だったのかはわからなかった。
彼女たちの言いあっている言葉は、
不良なまりがすごくて、早口で聞き取れなかった。
だから私は、ただ呆然と、
あっというまに始まってしまった騒動を、呆然と見ていた。
ただメリハンが私のことなど完全に忘れて、
そして完全に切れていくのを感じて、
ああ、まただ・・・
そう、確信して。

メリハンは、いつもおしゃべりで短気で、攻撃的な性格ではあったけれど、
他の誰とも違うのは、本当にキレた時、
彼女はどんどん感情が冷めていくようだった。
そして、無言で相手に向かっていくため、恐怖を感じる。
その目になにが見えているのかわからないくらいに、
その冷たい顔は、普段の彼女からは想像できないほど感情がそげおち、
まわりをぞっとさせるものだった。

けれど私は、その表情のメリハンに遭遇するたび、
「ああ、やっと本当のメリハンに逢えた」
そんな気がして、そのときも、
どこかいっそ懐かしいくらいの万感で、彼女の顔を見ていた。
誰かが、犠牲になっているのに、
泣き叫んでいるのに、
助けを呼ぶこともできずに、ごめんなさいと謝る声が聞こえているのに、
私は助けることなどできず、ふたりを止めることなどできず、
メリハンがはじめた物事を終わらせるのを、
最後までただ見ていることしかできなかった。


そして、勝負は意外に早くついた。
先輩は、相手の髪をつかんでふりまわして、何本も髪を抜いていた。
そして顔をねらって殴っていた。、
女の喧嘩ってこうすればいいんだ、などと、
レクチャーもかますほどの余裕で。

そうしてそのあと、メリハンとその先輩がしたことは、
私にはにわかに信じられないことだった。
先輩は、いきなり鞄から豆電球をいくつも取り出して、
後ろから相手の女の子の口に放り込んでその口を手のひらで押さえた。
騒げば、割れる、暴れても、割れるかもしれない。
もしかしたら、一個くらい飲み込んじゃうかもしれない。
「割れっでー、血だらけなんでー」
おもしろそうにくすくす笑って押さえ込む先輩は、
やっぱり一見かわいらしい子供のようで、
それが私や彼女たちの恐怖を倍増させた。
すると、もうひとりを泥々の水溜りに転がして蹴っていたメリハンは、
それを見せ付けられていた電球をいれたままの少女に向かってきて、
その子の服を、無言で荒々しく剥き始めた。
少女は電球が割れてもいいと諦めたのかと思うほど、
じたばたともがいて抵抗していたけれど、
結局下着まで全部脱がされて全裸にされた。
そして、先輩に路地から連れ出されて、横断歩道に引きずられていった。
京都で一番ひとが通る横断歩道のなかへ、
沢山のひとの通る前へ、ポンって。


せめて下着は残しておいてあげるんだろうと思っていたから、
容赦なく全裸に剥かれた少女を見たときは、心臓が止まりそうになった。

だけど、ふたりはまるで平気で、いつもどうりの手順のようで、
私の心配なんか、なにひとつ共感できないようだった。

そして何事もなかったかのように、先輩はふりかえって言った。
「ほんまやったら、下に入れて遊ぶんやけど」
どこに、入れるかは聞くまでもなかった。
「お前らみたいなブスはボコに決まってるから、やめといたるわ」
そうせせら笑って、もうひとりの少女も引きずっていった。

そして全裸の少女のうえに、その子を服と一緒にほうり投げて、
「一応逃げとく?」と私を見てめんどくさそうに聞いた。
メリハンはすぐにいつものご機嫌さんに戻って、
自分の服をなおすのに気をとられながら、
何事もなかったかのように「ばいばーい♪」と彼女たちに手を振った。

私は自分が制服を着ていることにショックをうけた。
このままでは自分の素性がばれてしまう。
喧嘩とはいえ、警察に見つかれば捜索されるだろう。
相手がメリハンの名前を言えば、逃げられないだろう。
私は、自分の足場がガラガラと崩れていく様子に、泣きたいほど怖くなった。

そんな私のきもちをメリハンは察したのだろう。

「どうせあんたも私らと同じやと思われてるから大丈夫やって」

「捕まっても、いつものことやって帰されるから、な?」という笑顔とは対照的に、
私の顔面は凍り付いていたんだろうと思う。

その時、私の心のなかは、絶叫していた。

「私はこのひとたちと同じじゃない!」




はじめから、違っているのだと知っていた。
本当は、わかりあえないことも嫌というほど知っていた。
彼女の望む、本当のすべてを、わかちあえないことも知っていた。
彼女と友達だといいながら、
自分が不良少女だと思われること、在日朝鮮人だと思われること、
道をはずしているとレッテルを貼られていること、
そのすべてに、本当は全身で拒絶していたこと。軽蔑していたこと。
ねえ、メリハン、

私は、きっと、
あなたを差別していたんだね。
ずっと心のどこかで、
あなたを傷つけていたんだね。
そんな私が、大好きで大嫌いだったんだね。
だから、
また私に、復讐したんでしょう?



つづく






  「おもいで」

      1話 「転校生」
      2話 「嘘」 
      3話 「彼女の世界」
      4話 「青田さん事件」
      5話 「名前の由来」
      6話 「腐ったみかん」
      7話 「いじめと逆襲」
      8話 「彼女の正体」
      9話 「全裸事件」
     10話 「後悔」
     11話 「田部くん」
     12話 「殺人事件」
     13話 「つかのま」
     14話 「三本の矢」
     15話 「誕生」
     16話 「斑点」
     17話 「寄生」
     18話 「モノクローム」
     19話 「舌」
     20話 「呼び出し」
     21話 「罰」
     22話 「喪失」
     23話 「犬」
     24話 「希望の石」

   番外編(1) 「おねがい」
   番外編(2) 「おわび」
     








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ひどい話ですよね、ほんとすみません

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Category: 恋する思い出
Published on: Wed,  31 2010 15:53
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