恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(11)

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田部くん



こんにちはー。



今回はメリハンの初めての彼氏のおはなしです。
だからちょっとゆるーい感じ。
でも、なんだか忘れられないエピソードなので。



ではつづきです。






あれから、

私たちは結局、誰にも捕まらなかった。
もちろん、捕まりたくなかったのだけれど、
私はあの全裸の少女たちが、路上で何人ものひとに裸を見られていたので、
すぐに公衆衛生法違反かなにかで捕まって、
そのまま、私たちもいずれ捕まるんだとドキドキしていた。
もしかしたらその日のニュースになってるんじゃないかとさえ思って、
テレビにかぶりついていたものだ。

だけど、なぜかわからないけど、なにひとつ起こらなかった。
次の日学校へ行けば、ただ平凡で退屈な、いつもの月曜日がはじまっていた。
私は最初こそびくびくしていて暮らしていたんだけれど、
だんだん、自分でも、あれは夢だったんじゃないかと思うようになり、
誰にも話さなければ、きっと逃げられる、
そう思うようになり、そのうち思い出すことをやめてしまった。
メリハンもなにも言わなかったので、
とりあえず、高校のことはいったん聞かなかったことに、
お互い暗黙の了解で、これ以上話すことをしなかった。

メリハンは相変わらず二学期も学校へあまり来なかったし、
来ても授業をさぼって、どこかに潜んでいるようだった。
その事件のあと、彼女がいると告白した店員につきまとうのをやめたので、
自然とオフの日も遊びに行かなくなっていた。
そして、そのうちメリハンには校内に彼氏ができた。
その彼は、私の小学校からの同級生で、昔から友人だった、田部くん。
田部くんは、正直言って、背の高い、もやしのような痩せた子で、
性格も大人しく、おどおどして、けして不良の要素のまるでない、
普通の、ほんとうに普通の少年だった。

だから当時は、なぜあのメリハンが彼なんかを選んだのか、
私も、学校の先生でさえ、首をかしげる事態だった。
話があうとも思えないし、テンションもまったく違うし、顔も格好良くもないし、
いったいどこに惚れたっていうのか。
それは最初、何度ふたりが一緒にいるのを見てもよくわからなかった。

だけど、田部くんのご両親はびっくりして(本当に超びっくりしたんだと思う)
学校側へ訴えるほどに、交際反対行動を始めた。
メリハンは生活ごとひっくり返していく、耕耘機のようなもので、
田部くんはたちまち、親の言うことをきけない、
生活のすべてをメリハンにささげる生活を強いられるようになった。

だけど当時メリハンのアプローチを受けて、
堕ちない男子学生なんかいるわけがなかった。
毎日毎日「ここが好き」「あなたが好き」「かっこいい」「私を見て」
ミニスカートで、胸をはだけて悩ましげに寄り添ってくるメリハン。
毎晩電話をかけてきて、気をもたせていくメリハン。
そんな情熱のオンパレードに、どうやって下半身成長期の中1男子が勝てただろう。
しかも、学校中の注目のまとになるという、おまけがついてくる。
田部くんはあっという間にメロメロになっていた。
「ある意味、これはまたメリハンの犠牲になるんだろうな」
そして私は、そんな彼が気の毒だと思いつつ、
自分の荷が少し下りたような気がして、影でほっとしていたりした。

しかしやっぱり彼女は違うなあと感心したのは、
あのとっぽい田部くんが、どんどん魅力的な男子に成長していっちゃったこと。
たった二週間ほどで、なんとなく田部くんがベールを脱ぎ始めた。
180センチはある高い身長、やせて細長い手足に、
メリハンのアドバイス(というか命令)を受けて茶色く抜けた髪が、
小さい顔が際立つように、ウエーブをかけてスタイリングされていくと、
たちまち田部くんは、雑誌のモデルのようになっていった。
顔はともかく、スタイルは抜群。
何を着ても、足の長さに目が釘付けになる女子続出。
メリハンは、「当然」という顔をして、
彼をどんなときでも連れまわしていた。
彼女は最初から、彼の素質をただひとり見抜いていたのだった。
そしてバスケ部でも、弱々しいプレーで補欠だった彼が、
自信がついたのか1年生ながらレギュラーになり、
その練習が終わるのを体育館で待つメリハンの姿は、
先輩たちに一目置かれる理由としては充分だったのだろうと思う。
(ま、実際には放課後だけ来て、裏でタバコ吸って遊んでたわけだけれども)
家まで送らせるのは、彼女にとっては当然の彼氏の義務だったので、
大人しい田部くんは、素直に言いなりになって、
毎日ちゃんと、まるきり反対方向なのに彼女を家まで送っていった。

だけどメリハンが田部くんを持ち上げれば持ち上げるほど、
自分で自分の首をしめていくことになっていった。
当然田部くんはどんどん目立つようになり、どんどんファンができ、
自分でそう仕向けながらも、嫉妬でがんじがらめになっていくメリハン。
田部くんはメリハンしか見てないのに、
常に自分に酔う傾向に大いにあるメリハンは、
毎回彼に無茶を言い、傷つけ、放り出し、別れると騒いだ。
そして、彼が必ず、すぐに「嫌だ!」と追いかけてきてくれなければ、
彼女は何日でも田部くんを無視して困らせる。
かといって、夜中に突然「今すぐ逢いたい」を連発し、
田部くんは親の目を盗んで逢いにきて、
それをメリハンの父親に見られてどつかれて、
そして家に帰れば両親に見つかって、また学校へ押しかけられて、
ほんとに、そんなことの繰り返しで、
私のほうにも泣いたりのろけたりの電話はあったけれど、
彼女はすっかり恋の駆け引きに夢中になっていたため、
私への連絡はとても少なくなっていった。
基本家でもずっと何時間も田部くんと話していたいメリハンだったから、
電話もほとんどかかってこなくなった。
ただ、何回かは私に、何時にかけてこいと命令してきて、
なんだろうと思いつつ言われた時間にかけると、
メリハンは相手に「キャッチが入った」と言って私の電話に出て、
「そろそろトイレ行きたいし、向こうの電話切りたかったとこやねん」
と言い、トイレ休憩で切るダシに使われていたことを知った。
それくらい何時間も、彼女たちは電話をしていたようだった。

田部くんは、そんな彼女の洗礼に揉まれ、どんどん垢抜けていき、
彼女の誕生日に、中学1年生の坊主のくせしてテスティモの新色を
箱にリボンをかけてプレゼントするというレベルにまで達していた。
もうそれを化粧品カウンターで買って
包装までおねえさんにお願いする田部くんを想像するだけで
ふたりを見守る私たちが泣けてくるような成長だった。
(彼いわく、何度も暗黙の指定があったらしいんだけども)
だけど、その口紅も、実に彼女らしい理由とやりかたで、
田部くんを傷つける道具となった。
メリハンはちょうど喧嘩しているつもりだったためか、
彼の前でとても機嫌が悪くふるまい、
そしてせっかく彼が勇気を出して買ってきてくれただろう
そのピカピカの箱を破り捨てた。
そして中身を確認すると、すぐにその新色リップで、
メリハンは彼の目の前で、窓ガラスに大きく「大キライ」と書いた。
ぽーんと投げられた、折れて命を終えた新色リップ。
それは一瞬の出来事だった。

その詰るように引かれたモーブ色の「大キライ」を、
田部くんは唖然とした顔で見呆けていた。
彼は、なりはモデル君でも、心はただの少年だ。
ずっと小学校から同じクラスだった私は、それを痛いほど知っていた。
今、彼は多分、すべての思考が停止しているだろう。
もう、これは無理かもしれない。ひょっとしたら神経を病むかもしれない。

そんな修羅場になんの因果でたまたま遭遇してしまったのか・・と頭を抱えつつ、
私はメリハンからそのリップをとりあげて、
「もう、せっかくの新色なのに!」
と、まとはずれなことを言って、さらに沈黙を生んだ。
そして、音がしたな と思ったら、
田部くんは、とうとうボロボロと涙をこぼして泣いていた。
そして初めて彼は、メリハンを置いて、ひとりで家に帰っていった。
その猫背な背中に漂う哀愁はものすごくて、
ああ、もう、モデルが泣いちゃった、またメリハンの受け皿がなくなっちゃった・・・
みんなどれだけ残念に思っていたことか。
とりわけ私は、この後自分にかかってくる荒れる彼女を想像して、
とっても暗い気持ちだった。何百回と中島みゆきの悪女を弾かされるんだろうなと。
メリハンは多分、そんな口紅でメッセージを書くシーンかなにかを
テレビか漫画でみたのだ。
それで、喧嘩のついでに相手を困らせたくて、
同じようにやってみたかっただけなのだ。
メリハンは加減を知らないし、
元々相手を思いやって行動するということには興味がない。
嘘をつくのも、笑顔を見せるのも、
自分のためであって、他者のためではない。
だけど、相手はこの間まで小学生だったガキなのであって、
そんな彼に、彼女が満足できるわけがない。

「よし、もう二度と同級生とは付き合わないようにさせよう」

私はこの時、学んだ。
もうこれ以上、不憫な男子中学生を犠牲にしないようにしよう。。
メリハンには年上限定の彼氏をすすめよう。
だいたい、絶対に最後まで「させない」と公言しているかぎり、
いくらつきあっても手に入るのは、せいぜいキスくらいで、
他にゆるそうな女子がいくらでも田部くんにはできるだろう。

メリハンの、自分にふさわしい外見と忠実のみを求める交際は、
無理があった。もうね、かわいそすぎた、
私もちょっと見て見ぬふりしてたことを反省した。
結局のところ、メリハンはわがままで女王でいたかっただけなのだ。
子供に彼女の相手は無理なのだ。

だけど、そう諦めた周囲の私たちの予想をくつがえし、
次の日に田部くんが私のところにやってきて言ったことは、驚愕ものだった。

「これ・・・また同じの買ってきたから、渡しておいてくれる?」

俺の顔はまだ見たくないんだろうから・・・そう言って、
まったく同じテスティモの箱を私に渡してきた。

「ええっ、まだ懲りてないの?!」

つい本音をもらした私に、恥ずかしそうに田部くんは言った。

「昨日、ごめんって電話をもらったから・・・」

そうなのだ、あの後私が「とにかく謝れ」と言っても、
ツンツンしてまるで取り合わなかったメリハンが、
実はそのあと私に怒られたと言って、
「もったいないことしてごめん・・」
と、謝るポイントがちょっと違うゾというような、謝罪をしたという。
そして、お昼休みに買いに走ってきたそうな箱。
私の予想では、メリハンは多分カネボウのおねえさんが
田部くんに会って喋ったってだけで妬いてやったことだと思うので、
さらにこれは喧嘩の火種になるだろうなあとわかっていたのだけれど、
一応口紅を受け取って、「ありがとう」と何度も礼を言った。
別に私が礼を言うことではないのに、ぺこぺこしてあまつさえ
「色々ごめんね」と謝っていた。
その日メリハンは私の予想どうり、
またしても私の目の前で、鏡台の鏡にリップを押し付け、
結局ぐっちゃぐちゃにして怒りをはらしていたんだけれども、
私は
「あんたがカネボウへ行くように仕向けながら、やきもちやくってどうなの」
とため息をつきながら、そのリップをブラシで使えるように、
小さい容器につめなおしてあげた。
あとしばらくは、この思っていたより根性のありそうな田部くんに、
メリハンをまかせていたかった。
私には、その頃、ピアノの発表会と、英語の弁論大会がせまっていたのだ。







つづく








  「おもいで」

      1話 「転校生」
      2話 「嘘」 
      3話 「彼女の世界」
      4話 「青田さん事件」
      5話 「名前の由来」
      6話 「腐ったみかん」
      7話 「いじめと逆襲」
      8話 「彼女の正体」
      9話 「全裸事件」
     10話 「後悔」
     11話 「田部くん」
     12話 「殺人事件」
     13話 「つかのま」
     14話 「三本の矢」
     15話 「誕生」
     16話 「斑点」
     17話 「寄生」
     18話 「モノクローム」
     19話 「舌」
     20話 「呼び出し」
     21話 「罰」
     22話 「喪失」
     23話 「犬」
     24話 「希望の石」

   番外編(1) 「おねがい」
   番外編(2) 「おわび」
     










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その女心は、難しすぎるって・・・

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Category: 恋する思い出
Published on: Thu,  01 2010 15:22
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