恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(12)

殺人事件


最近、
私は自分の中学時代の思い出が、
こんなに長い思い出話になると思ってなかったような、
いや、やっぱり、はじめからわかってたからこそ、
この話をあまり今までひとに話したことがなかったんじゃないか とか、
いろんなことを考えながら、「おもいで」を書いています。
ちゃんとね、プロットっていうの?構成っていうか、
組み立ててから書くほうが楽だったかもしれないんですけどね、
全部、いきあたりばったりで書いてます、思い出しながら・・・。
だから時々、書きながら、
ああそうそう、あんとき彼女こんな顔だった! みたいな、
一緒になって文章の中をさまよって、
記憶を思い出して書き足すこともあり、
書く事で、封印していた思い出を今になって発掘しているような感覚です。
こういう作業が、なんで今必要だったのか、
いつかわかるんでしょうね、また、何年かしたら。


では、つづきです。







私がクラス代表に選ばれたとき、
英語の先生は、とても困っているようだった。
確かに他のクラスに比べて、私のクラスはどこよりも発音が下手で、
そんな似たり寄ったりの低レベルから、
ちょっとましに聞こえる子を選んだだけだったと思う。
他のクラスにはハーフや、ジュニア英会話でならした子たちが選ばれていて、
どうやっても、流暢な英語に勝てそうには思えなかった。

だけど、私は、みんなの同情を買いつつも、そんなに心配していなかった。
私のなかで、すでに英語っていうのは、「言葉」であって、
「話そう」という意識を持って
相手に通じる単語を使って声を出すことが語学で、
その道具がABCだったり漢字だったりするだけ。
そんなふうに、解釈してしまっていたから。
たとえ単語が出てこなくても、三単現のSがつかなくたって、
それくらいで通じないものではないと、どこかで達観していた。
英語が特別なものだなんて思わなかった。
嫌いだった、大嫌いだった。
なぜなら、私は毎日、
くぐもった下卑た声で、
「I love you 、I need you」を聞かされていたから。
流行の歌詞ではなく、耳触りのひどく悪い声で、
耳を塞ぎたくなるほどの、ぞっとする声で。


   ◇   ◇   ◇


文化祭や、ピアノや部活で忙しく駆け抜けて、3学期を迎えた冬、
私は3年生の彼氏だった先輩に
「受験が終わるまで距離を置きたい」
と言われてしまう。元々クラリネットリーダーが好きだったひとを
奪うのが目的で私が始めたようなものだったので、
先輩にしてみれば、
「そんなに僕が好きなら、見守って」
的な、超かっこつけたサヨナラを演じていたのだと思う。
だけど私は、その時にすでに2年生の先輩と良い雰囲気だったので、
「はい、じゃあ、受験がんばってくださいね」
といって、素直に別れに承知した。
先輩だって、「あいつにかまってもらえ」と言っていたのだ。
それくらい、自信家で、ナルシストなひとだった。
いつだって、「最後は俺が好きなくせに」と思われているような気がした。
多分今でもそう思われているような気がする。
なぜなら、そのひととは結局、大学を卒業したあとも
年に一度くらい呼び出されて逢うことがあった。
今でも、結婚して地方に住んでいるくせに、
「帰京してる、○○ホテルにいるから」
みたいな呼び出しが、かかってくるときがある。
そんな誘いに本気でこっちがノると思ってんだろうかっていつも不思議だけど、
ようは思い出話も含めて、昔に戻りたいんだろうなって最近感じる。
いつまでも都合のいい先輩・後輩、んでもっておマケがつく。
「お前が結婚したら連絡するのをやめる」
って言われるのは、つまり同情されてるんだろうな。
あんだけ無視しても、堂々と、今でも送ってくる年賀状が大変よろしい。


で、話を戻すと、その呆れるほど自信家で甘々の先輩に恵まれたあと、
私は結局「待ってます」なんて言っておきながら、
さっさと、その彼の後輩でもある、2年生の先輩と付き合い始めた。
そうしたら、その先輩には元々、
同じ二年生の女子で、ファンを公言してるヤンキーがいて、
まあ当然ながら、彼女は「乗り換えてきた」私に激怒してしまった。
で、すぐに呼び出された、それはもう、すごい形相で、めちゃめちゃ怒ってて、
絶対殴られると思えた。でもそのときも、
「他はいいけど、指折られたらどうしよう」って、
そこが一番の心配だった。
だけどなぜか、私は殴られなかった。
とにかく「別れろ」と脅されただけで、
ずっと無言で返事をせず、グーをつくって指を守ってた私は、
小突かれても、手を出されることはなかった。

その日はさすがにショックだったので、
家に帰ってからもずっと
「別れへんと、また呼び出されんのなあ」
なんて考えていたら、遅くにメリハンから電話があった。
「ちゃんと別れてきた?」
「・・・どういうこと?」

いきなり、明るくたずねてきた彼女の第一声に動揺した。

「いや、別れろってあいつ言うてきたやろ?」
「そうだけど・・だからって、なんであんたが知ってんの?」
「そら聞いてたもん。今日あんた締めるって」
「は?どういうこと?」

なんだか、嫌な予感がした。

「ちゃうで、最初はうちに別れさせるように言うてきたさかい、
 そんなん自分で言うてって言うたったんや」
「なにそれ?じゃあ、私が呼び出されるて知ってたん?」
「あたりまえやん、昨日先輩うちにいたもん」
「はあ?それどういうこと?家で作戦練ってたってこと?」
「そうじゃないけど、わあわあ泣いとったし。もうめんどくさいやん。
 そんだけ言うてるんやったら、あんたが別れたったらええやん」


メリハンの告白は、私を打ちのめすのに充分だった。
彼女は私が、その先輩たちに呼び出しくらって締め上げられることを、
はじめから知っていたのだった。

確かに彼女とそのひとが交流があるのは知っていた。
メリハンのほうが立場が上なのも知ってたから、
メリハンが止めることができるのも知っていた。
私がメリハンの友達なので、お伺いたてにきたそうだ。
そして、それを彼女は許したのだと言う。
「どーぞ、どーぞ」と差し出して。
結局、
彼女にとって私は、それくらいのものだった。
「たまにはおしおきが必要」そんなふうに笑っていたかも知れない。

だけど、逆だったら?彼女に向かってくるひとがいたら?
私はきっと、止めたと思った、守ったと思った、事前に彼女に報告して、
「逃げろ」と言ったと思った。
私は青田さんのことがあってから、ずっとそのつもりでいたのだ。

なのに、彼女は私へ攻撃を黙認して、さらに向こうの肩を持つ。

「あいつの家庭環境、すげーかわいそでさァ」

それがどうした ふざけんな

「あんたみたいな恵まれたお嬢ちゃんには、またすぐいいことあるって」

なんにも知らないくせに なんにもわかってないくせに

「手は出すなって、口だけにしてって、ちゃんと言うといたよ?」

ありがとうは? そうはしゃいで聞く彼女の声を聴きながら、
私は言葉が見つからなくて、じわっと何かが溢れてきて、
そしてぼたぼたと涙を落として泣けて来た。
前の先輩とのときも、さんざんいじめられてきたけど、
所詮文科系の苛めなんか、陰口や無視のほうが多くて、
表立って、ああやって呼び出されて詰め寄られることなどなかった。
平気なふりをしていても、ずいぶん怖かったのだと思う。
そこへ、どこかで自分だけは特別な存在と信じてた
思わぬ友の裏切りにあって、私の感情は爆発しそうだった。

「・・・もういい、ごめん」

ほとんど自分から切ったことのない電話を、
先に切って、そのまま受話器をあげた。
心のどこかで、最後はメリハンになんとかしてもらおう なんて、
考えてた自分が恥ずかしくて、情けなくて、悲しくて涙が止まらなかった。
なんで私は、メリハンに何度裏切られても、
心の絆を信じてしまうんだろう。
ふたりは特別なのだと、期待してしまうんだろう。
何回同じことを繰り返せば、
私は彼女と離れられるんだろう。

泣きながら、迎えた次の日から私はメリハンと話さなくなった。
そして、ふたたび弁論大会の練習に没頭した。

我が校の弁論大会というのは、1年から3年の全学生の前で、
クラスの代表がひとりづつ、英語でスピーチするものだった。
審査は英語の全先生と審査員に選ばれた学生が行い、
学年別と合同で3位まで表彰される。
当然その成績は内申に有利になるもので、クラスごとの応援もあり、
頑張ったほうがいいにきまってる。
だけど、私はどこかで空回りしている自分を感じてた。
なにもかもが、うまくいかない、それは、

「来るべきときが、来ているのかもしれないな・・」

ひとり、自分にだけわかるなにかに、
とうとう捕まったような気がした。

私は呼び出しを受けたあと、そのことを彼に隠して、
別れるそぶりをまったくみせなかった。
特にいちゃいちゃしていたわけじゃないけど、
鞄を持ってもらって一緒に帰る、その姿を隠したりしなかった。
襲ってくるなら、襲ってみろ と思っていた。
私は待っていた、メリハンがやってくるのを。
私に「別れろ」と言ってくるなら、それはあの子でなければならなかった。
そのときすでに、私のイライラはピークに達していた。

だからかな、その頃から急激に私は、
担任の先生に刃向かうようになっていった。
その先生はなまりがきつくて、「ざじずぜぞ」が言えなかった。
だから「ぞうきん」は「どうきん」、「Y座標」は「わいだひょう」、
「全然」は「でんでん」と、発音した。
ずっと入学したときからそうだったのに、
今頃になって私は、急にそれが我慢できなくなっていた。

毎日毎日、繰り返される英語の発音練習、音のピッチ練習。
正解が出るまで、正しい基本が発音できるまで、
それは何度も続けられていた。それがそのときの私の世界だった。
なんで?正しくなくても、通じるのに、
正しい音を習得しないといけなのはなぜ?
教科書に書いてある口の形を保たないといけないのはなぜ?
じゃあ、なんでこいつは数学の先生なのに、
正しくない言葉を修正しないの?堂々と先生してるの?
教科書に書いてある「ざ」が「だ」で、なんで許されるの?


そんな、ちっぽけな怒りが、ふつふつ湧いてきて、
私はその先生の声を聞くのが嫌でしょうがなくなってしまった。
先生の声はもともと似ていた、私のもっとも嫌悪するものにそっくりだった。
もう生理的に駄目だったんだと思う。
だから、そむいた。なにもかも言う事をきかなくなった。
何か言われれば
「正しい発音ができるようになってから説教してください」
青く突っぱねた。

親に電話がかかってくることもしょっちゅうになって、
そのたび私は親から受話器を取り上げて、電話を切った。
電話が腐るような気がした。
当然数学の試験は白紙で出した。
その時ばかりは内申書のことなんか、考えられなかった。
そのことがバレると、他の先生の前ではつとめて品行方正でいたためか、
学年主任に担任と3人で話し合いをされることになった。
だけど、私は貝になった。 なんで先生が嫌いなのか話さなかった。
アニメに出てきた、海のシャコ貝をイメージして、その時間を耐えた。
先生の発音が誰に似ているかなんて、
私は口が裂けても言えなかった。言わなかった。
メリハンの影響だと、どうせみんな思っていたのだろうけど、
ならなんで彼女と今一緒にいないのか、友人たちも不安そうだった。
だけど、私はそんなことすら、なにひとつ打ち消さなかった。
そんな意地をはるように孤立する私を、
弁論大会の代表から下ろそうと担任は呼びかけた。
だけど、時期的に無理で、結局私は不安定なまま出場してしまう。

その日、徹夜明けの私の番になって壇上に立った途端、
いきなりどこかで奇声があがった。
みると、私を呼び出した先輩グループが、
体育館の後ろのほうでやじを飛ばして騒いできた。
「たらし」とか、「ヤリマン」とか、「下手くそ」とか。
彼女たちはすぐに追い出されたけど、
それまでほとんど寝ていた生徒たちの目を覚まさせるには充分だっただろう。
私のせいできっと、3年生の兄も、元彼も今彼も、クラスメートも、
恥ずかしい思いをしているだろうな、こっちも恥ずかしいな。
そんなことを、ぼんやり思った。

そして、目にはいったのは、彼女たちと一緒でなく、
普通にちゃんと席についていたメリハン。
彼女は、手をたたいて、なぜかお腹が捩れるほど大ウケしてた。
それを見たときに、感じたこと、
「ああ、私、あの子に笑われたら、もう終わりだわ」
結局私は、差別してた、それが一番ショックだった。
で、もう脱力しちゃって。
頭が真っ白になってしまって、あんなに練習したのに、
口だけ勝手に動いただけで、ほとんど棒読みだったと思う。
結局、私は入賞なんかできなかった。



そして、一週間後に、本当の事件が起こった。


その日まで、ろくに口も聞かなくなっていたメリハンが、
突然私に、喧嘩なんか感じさせない様子で、話しかけてきた。
私はといえば、彼女が朝一番に来てるなんて珍しいなと思って、
面食らっているうちに、目の前に立たれてしまっていた。
メリハンは私に、いつもの横柄さを閉じ込めたような、
ひどく下手なかんじで、切り出した。

「やっぱり、別れてあげてよ」
「は?何今さら」
「あんた知らないの?」
「だからなにがよ?」
「あんたを呼び出した先輩のお父さん、お母さん殺しちゃったんだって」



  先輩のお父さんが、お母さんを殺して逃げました。
  先輩は目の前でそれを見てしまいました。
  その後、お父さんは行方不明になりました。
  先輩はおばあさんとふたり、家に警察にとどめられていました。
  次の日に、お父さんは、墓地で首を吊っていました。
  先輩は学校に来なくなりました。



「・・・だから何?」
「だから、かわいそうだって言ってんの、
 先輩なぐさめに行けって、あんたの彼氏に言ってやってよ」


事件は学校をのみこんで、
そういや廊下で泣き合う二年を見たような、
誰もがひそひそ話していたような、そんな気はした。
だけど、

「・・・バカじゃないの?」


自分も死んじゃったんだから、
お父さんはお母さんに、愛があったってことじゃないの?
娘を道連れにしなかったのは、愛された結果じゃないの?

「そんなことで、あたしは別れないよ・・」

人を殺したいと思ったことはないよ。
だけど、刺し違えても殺さないといけないかもしれない時は、
もうすぐ、そこに来ていたの。
私はそれを、ずっと前から感じて育った。
そのひとのそばで殺意を育てて育ったの。
だから、だからねメリハン。

あんまり、私を刺激しないでよ。






つづく









  「おもいで」

      1話 「転校生」
      2話 「嘘」 
      3話 「彼女の世界」
      4話 「青田さん事件」
      5話 「名前の由来」
      6話 「腐ったみかん」
      7話 「いじめと逆襲」
      8話 「彼女の正体」
      9話 「全裸事件」
     10話 「後悔」
     11話 「田部くん」
     12話 「殺人事件」
     13話 「つかのま」
     14話 「三本の矢」
     15話 「誕生」
     16話 「斑点」
     17話 「寄生」
     18話 「モノクローム」
     19話 「舌」
     20話 「呼び出し」
     21話 「罰」
     22話 「喪失」
     23話 「犬」
     24話 「希望の石」

   番外編(1) 「おねがい」
   番外編(2) 「おわび」
     








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Category: 恋する思い出
Published on: Fri,  02 2010 16:04
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2 Comments

S子  

ハッピーママ様へ

北乃きいさんは好きな女優さんなんですけど、
その映画は観れていないのです。
観るのが怖くて。
私のイメージではどちらかというと、
「青の炎」を読んだとき、すごく胸がすっとしました。

2010/04/05 (Mon) 19:39 | REPLY |   

ハッピーママ  

うーん・・・

きましたね・・・。

何故だろう、「幸福の食卓」っていう映画を思い出しました。

2010/04/02 (Fri) 21:54 | REPLY |   

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