恋する小鳥

Irreplaceable 

おもいで(13)

つかのま



想像をわかりやすくしたくて正直に書きますが、
自分の生家は、社会の授業じゃ喩えになって出るほど、
古い大きな屋敷でした。
犬上家のそれとよく似ていて、
暗くて、陰気で、おどろおどろしくて、
本当に、朝も夜も、襖をあければお化けが出てきそうな、
怖い怖い黒い家でした。
その黒い家のイメージがそうなのか、
私の記憶もとても怖いものばかりで、
だから、普通に書いても時々、
読む側によっては、ショッキングなことが出てくるかもしれません。
先に謝ります、ごめんなさい。
ではつづきです。













「ただいま・・・・」

家に帰ると、ヒィッ!ヒィィッ!と、
泣き叫びながら洗い物をしている母がいた。
流れっぱなしの水道の音。
ごしごしと洗われて濯がれる食器は、最後に水切りかごに入れられて、
それらはすべてガシャンと割られていく。
母は、次々に洗い続ける。
そしてそれを、狂った力でたたきつけていく。
派手に音をたてて欠けていく茶碗たち。
ヒステリックに血走った目は、もう、何も見ていないのを確認して、
私はそっと自分の机のある部屋に向かう。
それが私の、いつもの日常。

勉強机のイスに座って、
とりあえずぼうっとして、意識を遮断させる。
自分の見たものを心のなかで消して、
制服を着替えようとする、その瞬間、
馴染んだえもいわれぬ悪臭が、ふっと流れ込んできた。
途端に、足のつま先から、頭のてっぺんまで、ぞわりと波立つ。

「・・・おかえり・・・・」

真後ろから、声がする。
私の息の根を止める声がする。
それが、私のいつもの日常。


私の家には、モンスターがいた。




    ◇   ◇   ◇



私は二年生になった。

学校というのは不思議なもので、ひとつ学年があがっただけで、
なんだかいろんなものを得られるようになっていた。
後輩ができると、守ろうとか、役にたとうとか、
そのことによって成長していくことになる。
私もようやくクラブに後輩ができて、
慕ってくれる喜びを覚え、あれだけ疎外してきた同級生とも、
うまくやれるようになっていた。
メリハンはメリハンで、取り巻きに派手な後輩たちが増え、
ますますその地位を不動のものにしていった。
可愛い後輩たちに囲まれ、照れくさそうにしながらも世話をやく彼女の姿は、
当時流行していた「極道の妻たち」の姐さんそっくりで、
私はつい「ごくつま」と呼んだりしていた。
そんな変な呼び名に「アホ言いなや」といなしながらも、
彼女はなんだかイキイキとして、嬉しそうにしていたので、
私も、ほっとしていた。

小さな田舎町で起こった、殺人事件のニュースは、
犯人が自殺したせいか、あっというまに収束した。
今でもテレビで見る有名レポーターが学校へ来たことがあったけど、
門の前でなにか撮影していても、それがどこか現実のことには思えなかった。
先輩はあのあと、なぜかメリハンの家に一週間ほど宿泊していたらしい。
そんなに仲良くなかったはずなのに、メリハンを頼っていった先輩。
そこでなにが話されたのか、先輩はそのあと、
一度だけ私のつきあっている彼に逢いに、学校へやってきたらしい。
メリハンは私にもう何も言わず、単独で先輩の教室へ行き、
連れ出して、門の前で彼女に会わせた。
そのことを後から先輩に聞いて、なんとなく「ごめんなさい」と謝った。
常に台風のようなメリハンが突然教室に現れたら、
一般人の彼はとても困ったことだろう。
照れながら
「最後に挨拶したかったんだって」
そうわざわざ教えにきた彼は、
きっと先輩にも礼儀正しく、優しくさよならをしてあげたんだろうと思う。
私を「サセ子ちゃーん」と全校生徒の前で叫んだそのひとなのに、
私もその先輩に対して、憎いとか、妬くとか、逆に哀れだとか、
感情はなにひとつ生まれてこなかった。
ただ、漠然とした私の学校生活において
「邪魔者がひとり減った」
その安堵だけは、ひそかに息をもらし、私を安心させてくれた。
そして私が心の底から嫌って抵抗した担任の教師は、
春に隣校へ移動していった。
「邪魔者がひとり減った」
私はまた、邪悪な心で微笑んだ。
偶然なのか、私のせいなのかはわからない。
私もまた、モンスターだったのかもしれない。


高校に受かった元彼と、今彼の両方を、
多分適当に渡り歩いていた不実な私ではあったけれど、
お互い黙認してくれていたので、仲良く3人で会うことさえあった。
間違っても恋なんかしなかった。好きではあったけれど、
いくら自分の気持ちを聞かれても、
「先輩が欲しい」という言葉は出てきても
「先輩が好き」とは一度も出てこなかった。
私はただ、なにかのなにかでありたかった。
誰かのなにかでありたかった。
先輩の彼女のあの子、メリハンのともだちのあの子。
自分が自分で呼ばれないように、いつだって隠れていたかった。
せめて希望の高校へ入るまで、気持ちの良い席で笑ってすごせればよかった。
推薦もらって音楽科へ入学して、音大へ入って、
そのへんのレコーディング会社かなにかに就職する。
大それたピアニストでも作曲家でもない、
町外れのレコード店の店員でもよかった。
そんな小さな小さな、でも頑張ればなんとかなると思えた将来を、
私はひっそりと夢見てた。
そしてそんな夢をはぐくみながら、時は穏やかに過ぎていく。

だけど、そんな小さな願いを、
私は自分自身でつぶしてしまう日がやってきた。
あの日、私はとうとう、
彼女を救うことに成功した。
それが、どんな代償を払わせることになるか、
もし事前にわかっていたら、私は同じことをしただろうか。
あの場所へ出かけただろうか。

何度も、振り返る。

だけど、やっぱり、思い浮かぶのは、
自分が目指したあの場所だけ。
迷って、さんざん迷って、
選んだのは、彼女の笑顔だった。

ねえ、メリハン、あの時の私は、
ほんとうにどうかしていたみたいだよ。

あなたを救けることしか、頭に浮かばなかった。
たとえ何もかも失った私を、あなたに捧げることになっても、
あなたがずっと望んでいたとおり、地に堕ちたとしても、
それでも、守らなきゃって思ったの。
そして私は走ったの。

もしかして、本当は、
あなたに、恋をしていたのかもしれないね。
走って走って、走りながら、
あなたの名前をずっと呼んでいた。
私にだけに許してくれた名前を、
何度も、そう何度も。
あなたを「欲しい」とは思わなかった。
あなたを「邪魔」だとも思わなかった。
だけどありったけの勇気を集めて、
私はあなたのもとへ走ってた。
見返りも、思惑も、なにもなく、
私はただ、あなたを見つけて奪いたかった。
それが恋なら、仕方ない。
それが友情なら、甘んじて、
走れメロスになろうと思った。
それが私の、あなたよりは勉強のできた私の、
命を張ったシャレだったんだよ。







つづく









  「おもいで」

      1話 「転校生」
      2話 「嘘」 
      3話 「彼女の世界」
      4話 「青田さん事件」
      5話 「名前の由来」
      6話 「腐ったみかん」
      7話 「いじめと逆襲」
      8話 「彼女の正体」
      9話 「全裸事件」
     10話 「後悔」
     11話 「田部くん」
     12話 「殺人事件」
     13話 「つかのま」
     14話 「三本の矢」
     15話 「誕生」
     16話 「斑点」
     17話 「寄生」
     18話 「モノクローム」
     19話 「舌」
     20話 「呼び出し」
     21話 「罰」
     22話 「喪失」
     23話 「犬」
     24話 「希望の石」

   番外編(1) 「おねがい」
   番外編(2) 「おわび」
     









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なぜあの日君は、無防備になったの?
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Published on: Mon,  05 2010 13:37
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