恋する小鳥

Irreplaceable 

塗り方

いつのまにか



10年前に塗装の職人さんに、プロの塗り方を教えてもらった。
今は当時のように、現場でペンキまみれになることはないけれど、
それでも防腐剤や柿渋など、倉庫で下塗りすることも多く、
絵心がないのに、なんだかんだと、
ハケを握っていることがある。
その職人さんが亡くなったそう。
塗装職人をやめて、今は高校の化学の先生をしていた。
塗料の配合に詳しく、教え方も上手かったのは、
教員免許を持っているからだと後で知って驚いた。
パートナーが葬儀に出掛けた事務所で、
いてもたってもいられずベランダに出た。
もしかしたら今も通る黒い列に続き、
彼もあと何時間かすれば、ここを通り、
この山の上の火葬場で焼かれるのだろうか。
確か子供が3人はいたはずだ。
キャンピングカーに乗り、夏休みになれば、
日本中を家族で旅するのだと言っていた。
はるかに私より人生が充実して、
沢山の誰かに必要とされているひとが、
驚くほど短い人生を終えていくのが不思議でならない。
どうしてこんなふうに、
人生は突如終わりを次げるのだろう。
私はきっと、彼に教えられたとおりに刷毛を動かし、
生徒だった者は、化学の道理を理解した人生を持ち、
家族はきっと、沢山の思い出に包まれて生きていく。
優しく、わかりやすく、指導してくれた。
彼は沢山のひとに、なにかしら与えていた。
まだ驚いている。まだ実感がない。
どんな理由で亡くなったのかもわからない。
ただ安らかであったらと思う。
小さな穴が開いて、またいつか埋まる。
そんな穴が、そこに見えた。
彼の笑顔が見えた。
私は多分、教員になったと聞いてがっかりしていた。
本当はずっと塗装会社をしていて欲しかった。
仕事を一緒にしていて欲しかった。
彼の夢だったのに応援も祝福もできなかった。
ずっともう、忘れていたのに、
訃報を聞いた途端、色んなことがよみがえってくる。
もう遅いのに。
もう逢えないのに。
いつもいつも私はこうやって、
閉じていた自分を後で後悔するんだ。











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Category: 鳥以外のこと
Published on: Mon,  12 2011 12:20
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恩師の死 知人の死

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